当初のターゲット顧客が想定外のターゲット層まで拡大する。ライオンのヒット商品「部屋干しトップ」を例に考える。

商品を生み出すためにはまず何が必要か?

 

それはまずターゲット層を考えることである。

 

たとえば子供のおもちゃのCMを深夜に放送している局はいないように、ターゲット層の選定によって、マーケティングの方向性が嫌でも自動的に定まってくる。

 

またマーケティングの過程で、当初のターゲット層が拡大しそれがヒットする、ということもあり得る。

 

ここではライオンのヒット商品「部屋干しトップ」を例に考えていきたい。

 

 


 

ライオンの「部屋干しトップ」が売上伸ばしてきた。洗濯用洗剤としてはコンパクト洗剤以来のヒット商品であり、ライオン株式会社としても久々のヒット商品として売上拡大に力を入れている。

 

 

洗濯用洗剤は典型的なコモディティ商品であり、花王の「アタック」とライオンの「トップ」が大きなシェアを持つ二大ブランドとして存在しているものの、量販店のプライベート・ブランド(PB)を中心に価格攻勢が激しく、アタックやトップといえども熾烈な価格競争のに巻き込まれ、両者ともに収益性の確保に苦慮している。そのようななかでの「部屋干しトップ」の登場である。需要の頭打ち、PBを含めた熾烈な価格競争のなかで、花王もライオンも「何とかしなければ」という思いは強烈だっただろう。しかし、典型的な成熟商品の需要は回復しない。

 

 

atack

こちらは花王のアタック

 

「部屋干しトップ」の開発は、綿密な市場調査に基づいている。単身世帯が増え、働く女性が増え続けるなかで、彼らはどのようにして洗濯しているのだろうか?おそらく、専業主婦のように午前中に洗濯をしてベランダで干すといった行動はとっていないだろう。ましてや、マンション住まいならば、専業主婦といえどもベランダに気兼ねなく干してはいないだとう。だが、乾燥機付きの洗濯機は10万円以上と高い。

 

 

jy

こちらはパナソニックのドラム式洗濯乾燥機。簡易式の乾燥機付き洗濯機の価格は5万円ほどで購入できるが、本格的な乾燥機はまだまだ高い。

 

 

ターゲット顧客は決まった。単身で働いている女性で夜に洗濯せざるをえず、仕方なく部屋で洗濯物を干さざるをえない女性。だが、洗濯物を部屋に干すと臭いがたまらない。だから、「部屋で干してもにおわない洗剤を開発する」。このターゲティングは見事に当たった。そして「部屋干しトップ」はヒット商品となった。結果的には、部屋で洗濯物を干さざるを得ない人は、主ターゲットの働く若い女性だけではなく、同じ状況の働く単身男性、マンションのベランダに干せない専業主婦と、数多くいたのである。

 

 

ahy

コインランドリー等は費用がかかるため、家庭で洗濯する独身男性は多い。

 

 

成熟商品の差別化軸として、「干す状況」を設定しターゲティングしたにもかかわらず、同じ状況を共有する人々が多数いて、それが商品のヒットに結びついたという、近年まれな例であろう。差別化軸、状況軸を新製品開発の軸に加えることによって、当初はセグメント・マーケティングと考えて発売したものが、結果としてマスに拡大するという好例だろう。


出典「有斐閣:マーケティング戦略第四版」